青い海、白い砂浜、色彩豊かな魚、心地よい潮風。

今となっては少なくなってきましたが、潮だまり(タイドプール)にもたくさんの生き物がいます。

そこは遊び場としてのパラダイスでもありました。

身近にいる海のいきものについて、子供から研究者まで楽しめるように紹介をしていきたいと思います。


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2009年09月17日

魚類の生殖腺刺激ホルモンの真相

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新しく見つかったサケの生殖腺刺激ホルモン(GTH)によって、すべての脊椎動物について、脳下垂体では2種類の生殖腺刺激ホルモンが作られていることが判明しました。

サケのホルモンでは、分子量5万を分子をGTH-I、分子量3万6千の分子をGTH-IIと名付けられました。

サブユニット構造は、哺乳類のGTHにならって、α鎖とβ鎖の2つから構成されていました。

サケGTHのα鎖のアミノ酸配列は、ウシGTHのα鎖と65%の相同性がありました。
サケGTHのβ鎖とウシGTHのβ鎖との比較では、GTH-Iが濾胞刺激ホルモンに、GTH-IIが黄体形成ホルモンとよく似た構造をしていたのです。

従来、魚類のGTHと呼ばれていた分子はGTH-IIの方で、この黄体形成ホルモン様分子だけで生殖調節機能を担うと説明されていました。

GTH-IとGTH-IIは、どちらも脳下垂体の前葉という部分で作られますが、同じ細胞ではなく、それぞれ固有の細胞で合成し、分泌されていました。

また、GTH-IとGTH-IIは卵巣と精巣に作用して、性ステロイドホルモンの合成を促進していることも解りました。

血中レベルを測定した結果からは、GTH-Iは性成熟の初期に分泌され、GTH-IIは最終成熟期に分泌されることを明らかになりました。この分泌機構は、哺乳類のGTHである濾胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンと同じということになります。

このようにして、魚類における生殖腺刺激ホルモンの二元性が確立されたのです。



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2009年09月15日

学説におけるオセロゲーム

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魚類の生殖生理学では、生殖に係わっている生殖腺刺激ホルモンは1種類であるとされていました。そこに、生殖腺刺激ホルモンの二元性を唱えることは、大変な研究になりました。

それまで、教科書に書かれていたことが、すべてではないにしろ、大部分がひっくり返ることになるのですから、それはまるでオセロゲームのようです。

オセロゲームで勝つには、角を取ることが重要になっています。

内分泌研究では、ホルモンの物性、生物活性、産生細胞の局在、ホルモンの動態変化が「角」に相当し、これらを押さえることが重要です。

一般に研究では、新しい成果が出るたびに、その結果を論文にまとめ上げて発表していきますが、魚類の生殖腺刺激ホルモンにも2種類あるという研究成果では、結果を小出しにしないで、いくつかの論文に仕上げて、一気に公表されたのです。

このようにして、「魚類生殖腺刺激ホルモンの二元性」が誕生したのでした。1988年の出来事です。

しかしながら、ゲームと違って、このような研究では「勝ち負け」という概念はないと思うのです。つまり、新しい学説が提唱されても、それまでの定説を唱えていた専門家が「敗者」ということにはなりません。

大切なことは間違っていた解釈を訂正して、「真実」を明らかにしていくことなのです。

たとえ時間が掛かろうとも・・・



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2009年09月10日

見えてきた晴れ間

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魚類にも2種類の生殖腺刺激ホルモンがあるのか、それとも定説通りに1種類なのか、これは大きな問題です。

抽出とクロマトグラフィーを何度か行うと、2種類の生殖腺刺激ホルモン様物質があるような実験が出てきました。

ところが、この再現性がなかなかうまくいきません。
あきらめずに、しつこく精製を試行錯誤していきます。

サケの脳下垂体を35%エタノールを含む10%酢酸アンモニウム(pH6.1)で抽出し、これに3倍量の冷エタノールを加えると、糖タンパク質が沈殿してきます。この沈殿物が精製するための出発材料となりました。

次に、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過というクロマトグラフィーの手順で精製を行うことで、サブユニット構造を持つ2種類の糖タンパク質が再現性よく単離できたのです。

1つは分子量5万でアミノ末端分析ではチロシンとグリシンが検出されました。もう1つは分子量3万6千で、アミノ末端はチロシンとセリンだったのです。

化学的分析では、魚にも2種類の生殖腺刺激ホルモンがあるような結果になりましたが、この糖タンパク質が「ホルモン」として認めてもらうには、やはり「生物活性」があるかどうかに委ねられるのでした。

さらに、それぞれのアミノ酸配列はどのようになっているのか、その解析も急がれました。



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2009年09月07日

困難な道のり

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生殖腺刺激ホルモンは物質的には、「糖タンパク質」と呼ばれています。
さらに、2種類の糖タンパク質がα鎖とβ鎖のサブユニット構造を形成して、1つのホルモンとして働いているのです。つまり、「ホルモンとして一人前に働くには2つの糖タンパク質の集合体でなければならない」ということです。
そして、哺乳類などの2種類の生殖腺刺激ホルモンは、α鎖のアミノ酸配列が同じで、β鎖のアミノ酸配列が異なっているのでした。

また、「生殖腺刺激ホルモン」という名前のように、動物から組織を採取する時期も重要になっています。

このような特殊な事情が、ホルモンの精製をより困難なものにしていました。

魚の場合、活性試験を指標にホルモンを精製すると、どうしても1種類の生殖腺刺激ホルモンしか見いだせなかったのです。

しかし、分子進化的に考えると、「魚にも2種類の生殖腺刺激ホルモンがあるのでは?」という考えも予測できたのです。

そのことを証明するために、「生殖腺刺激ホルモンはα鎖とβ鎖のサブユニット構造を形成している」ことに着目して、サケの脳下垂体の抽出物をクロマトグラフィーで分画したフラクションに対して、電気泳動を用いてサブユニット構造を持つ糖タンパク質の検出を試みたのです。

ところが、糖タンパク質はアミノ酸配列は1つでも、糖鎖の部分が一様でないために、クロマトグラフィー上では1つのピークとしてまとまりません。

いろいろな試行錯誤を重ねても、サブユニット構造をもつ糖タンパク質は、1種類しか見つからなかったのです。



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2009年09月03日

大きな疑問

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魚の脳下垂体ホルモンの話を再開します。

私が学生の時、水産生理学の授業で、「魚の生殖腺刺激ホルモンは1種類である」と教わりました。

哺乳類を題材とした動物生理学では、「生殖腺刺激ホルモンは、脳下垂体前葉で合成・分泌されるホルモンで、黄体形成ホルモン(Luteinizing hormone, LH)と濾胞刺激ホルモン(Follicle stimulating hormone, FSH)の2種類ある」と教わるものです。

これがサカナの話になると、1種類のホルモンで生殖が行われている、というのが定説になっていたからです。

世界中のすべての学者が、そう信じ込んでいました。

ところが、サケの脳下垂体からホルモンを単離していくと、サカナといえども、哺乳類が持っているホルモンと同じ種類のホルモンが、きちんと存在していたのです。

そこで、「生殖腺刺激ホルモンも2種類あるのではないだろうか?」1つの大きな疑問が湧いてくるのでした。

ところが、魚の脳下垂体から生殖腺刺激ホルモンの単離を試みた文献を調べると、すべて1種類のホルモンの精製で完結しているのです。

このような時代に、魚類からもう1つの生殖腺刺激ホルモンを探索しようとする研究は、どう思われたのだろうか?

おそらく、「アホ」か「変人」としか映らなかったかもしれません。




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2009年07月01日

企業の思惑

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捕りすぎと沿岸部の開発によって、年々漁獲高が少なくなり、「捕る漁業から育てる漁業へ」とスローガンを掲げるも、これといった決め手が無かった時代に、成長ホルモンの研究成果は、大きなインパクトを与えました。

水産系や食品系の企業の他に、石油関連会社なども「魚の養殖」に興味を持ってきたのです。

それで、成長ホルモン剤を使った養殖業はどうなったかというと、結局、コストが掛かりすぎてしまうために商売としてあまりおいしくないという結果になって、実用化することはありませんでした。

しかしながら、「魚のホルモン研究」に注目が集まり、学術的に多くの成果が出たことは喜ばしい流れとなりました。

その成果の中には、未だ説明のつかないおもしろい現象なども見つかっているのです。

例えば、成長ホルモンが溶けている水槽に貝類を入れると、その貝はめっちゃくちゃ元気になるのです。

不思議でしょう。


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2009年06月29日

マリンバイオテクノロジーと成長へ

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魚に成長ホルモンを投与すると、どんどん体が大きくなっていきます。

しかし、成長ホルモンを養殖関連に応用するとなると、多くの問題点が浮かび上がってきました。

実験室レベルでは「注射する」という手法で行えますが、養殖業の現場となると、膨大な手間やコストが掛かってしまうので、そう簡単にはいきません。そのために、注射以外の投与法があるのか、ないのか検討をしなければなりません。

更に、成長ホルモン自体も大量に必要になることから、どのようにして調達するのか? これも大きな問題点となりました。

このような状況から、魚の成長ホルモンの研究はバイオテクノロジー活用へと時代は突入していきます。

そこで、自ら水産研究所を持ち、水産用医薬品の分野でもトップクラスの企業であった「協和発酵工業(株)」さんが成長ホルモンの研究に参画したのです。

(注:協和発酵工業(株)は水産研究所を平成16年10月に廃止しました。また、協和発酵工業(株)本体は現在、キリンホールディンクスに買収され、数社へと分社化されています)

そのためサケの成長ホルモンの構造は、タンパク質化学的には部分構造の決定に止め、全構造は遺伝子解析に委ねられました。更に、クローニングした成長ホルモン遺伝子を大腸菌内に大量発現させ、成長ホルモンの量産化へと進んでいくのでした。

投与法は、ホルモンを餌に混ぜることやホルモンを溶かした溶液に魚を浸す方法が提案され、どちらも「効果がある」という科学的なデータを得ることができました。

実験する準備段階では、成長ホルモンはタンパク質なので、胃腸によって消化されてしまって効果がでない、あるいは高分子物質のために腸や鰓などから吸収されないのではないかと危惧されましたが、病気のワクチン療法の分野で経口や浸透法において有効性があるとの報告が出てきたので、成長ホルモンの場合も大丈夫だろうとなったわけです。

このような研究成果は、ある全国新聞紙で、日ロ漁業交渉を題材に「大きなのはウチ(日本側)のもの」といった内容の風刺漫画にも使われました。

それから「マリンバイオテクノロジー」ブームの一端を担うことにもなったのでした。


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2009年06月26日

大きくしたい

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苦労の末、ようやく精製できたサケの成長ホルモンです。
次の興味は、どれくらい効果があるのかという点になりました。

学術的には「腹腔内投与」といって、成長ホルモンを溶かした生理食塩水をお腹の中へ注射して、その効果を検証することになります。

ニジマスを使った実験では、成長ホルモン液を注射した群は、生理食塩水だけを注射した群に比べて、明らかに体長、体重が増加してきました。

このような研究成果は、当時、沿岸漁業が衰退した代わりに育てる漁業を掲げていたが、いろいろな問題を抱えていた水産業にとって、明るい話題を提供することになりました。

そして、いくつかの企業も「サカナの成長ホルモン」へ興味を持ち始めたのでした。


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2009年06月24日

クロマトグラフィーをやめる勇気

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サケの成長ホルモンは、精製を繰り返すと回収されずに消えていきます。
実は、ここに単離を成功させるヒントが隠されていました。

ホルモンを高純度に精製するには、クロマトグラフィーによる分離が必要となります。ところが、このクロマトグラフィーを行うことで、サンプルが消失していくわけですから、思い切ってクロマトグラフィーすることを止めてしまったらどうなるか? という大胆な方向転換です。

ほとんどの脳下垂体ホルモンは、塩酸-アセトン抽出によって回収されます。しかし、ここでは成長ホルモンは抽出されてこないので、残った組織からアルカリ水溶液によってホルモンを再抽出することになりました。

そして、成長ホルモンが溶けている抽出液のペーハー(pH)を5.6に下げると、成長ホルモンが沈殿物として現れるのでした。等電点沈殿という手法です。

クロマトグラフィー法の発達によって、ホルモンの精製は「クロマト至上主義」といった感覚になっていました。そのような時に、クロマトグラフィーによる精製を極力、避けることは、かなり勇気のいる決断です。

そして、等電点沈殿といったひと昔前の手法へと回顧することで、成長ホルモンの大量精製が可能となったのです。

成長ホルモンの詳細な物理化学的特性を調べるには、高純度の標品が必要となります。そのために高純度の成長ホルモンの単離は、やはりクロマトグラフィーが必須になります。

サケの成長ホルモンでは、等電点沈殿物からSephadex G-100によるゲル濾過と高速液体クロマトグラフィーの2段階だけで精製を行うことになりました。

高速液体クロマトグラフィーでは、サケの成長ホルモンもプロラクチンと同じように2種類の分子として単離することができました。

結果からいうと、サケの成長ホルモンは変性を起こしやすく、溶液に溶けなくなってくるために、クロマトグラフィーによる精製が困難になっていたのです。また、凍結乾燥によるサンプルの保存も、溶けなくなる原因の1つとなっていました。


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2009年06月22日

試料が無くなる恐怖

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サケの成長ホルモンは、酸性溶液ではうまく抽出されません。
そのため、いろいろな抽出法を試した結果、アルカリ水溶液で抽出を行うとよいことが分かってきました。

ところが、クロマトグラフィーによる精製を行うと、抽出物の段階では存在していたはずの成長ホルモンが消えてなくなってしまうのです。

ごく希に純度よく精製できたとしても、その回収率はかなり悪いものでした。
次に、大量精製を試みると、全くと言っていいほど、うまくことは進みません。

実験するたびに、サンプルが消失してしまう。これは、研究に携わっている者にとって、かなりの恐怖心を招く現象です。

自分は実験が下手なために、そのような結果を招いているのか? それとも、無くなってしまうということをサンプルのせいへと責任転嫁してよいのかなど、多くの悩みが生じてしまうのです。

不安を打ち消すために、実験を行うのですが、結果はネガティブばかりです。

一時は暗礁に乗り上げかけた成長ホルモンの単離ですが、うまく行かななかった実験結果を並べて見ると、1つの法則みたいなものが浮かび上がってきたのです。

そして、ある「決断の時」がやってきました。


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2009年06月18日

マリンバイオの始まり、成長ホルモン物語

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内分泌研究(ホルモン研究)を魚の養殖への応用に結びつける場合、重要なキーワードは「成長」と「生殖」が挙げられ、成長ホルモンと生殖腺刺激ホルモンがクローズアップされます。

成長ホルモンは、その名前が示すように動物の体を大きくする作用を持っています。生殖腺刺激ホルモンは、卵や精子の成熟に重要なホルモンなのです。ところが魚の場合、これらホルモンの精製は大変な困難を伴いました。

それでは、成長ホルモンの話から進めましょう。

脳下垂体ホルモンからは、成長ホルモンが分泌されています。
この成長ホルモンはプロラクチンとよく似た構造をしているので、同じ祖先分子から分化したものと考えられています。いわゆる、兄弟あるいは姉妹関係といったわけですが、専門的には「同族タンパク質」と呼んでいます。

従って、プロラクチンと成長ホルモンは同じような分子量になるので、電気泳動を使ったホルモンの検出が期待できました。つまり、分子量22000〜23000くらいのタンパク質を追跡するのです。

サケの脳下垂体からホルモンを精製する場合、まず塩酸とアセトンの混合液を使って抽出します。この抽出物を出発材料にすると、プロラクチンは比較的簡単に精製できるのですが、クロマトグラフィー上でプロラクチンと違った挙動を示す分子量22000〜23000くらいのタンパク質は検出されない場合が多いのでした。

何度、脳下垂体の抽出を繰り返しても、成長ホルモンは、その姿が全然見えてこないのです。


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2009年06月15日

遂に解明された全アミノ酸配列

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構造解析のやり直しとなったサケのプロラクチン。

リジン残基のカルボキシ末端側で切断するリジルエンドペプチダーゼ、グルタミン酸残基ののカルボキシ末端側で切断するStaphylococcus V8プロテアーゼ、メチオニン残基のカルボキシ末端側を切断する臭化シアンなどで断片化したものを解析した結果、↓のようなアミノ酸配列になりました。
PIC135.jpg

サケのプロラクチンは187個のアミノ酸で構成されていて、4カ所にアミノ酸の変異がありました。

この研究成果は、哺乳類以外の脊椎動物でタンパク質性脳下垂体ホルモンのアミノ酸配列が解明された最初の例となったのです。

もし、高速液体クロマトグラフィーによって2つのプロラクチン分子に分離することが出来なかったならば、タンパク質化学的手法によるアミノ酸配列の決定は完了することなく終わっていたかもしれません。
そして、魚類のプロラクチンの構造解析は、後に研究の主流となってきた分子生物学的手法(遺伝子解析)に委ねられていたことでしょう。

このようなタンパク質化学的分析で成功したシロサケのプロラクチン研究は、成長ホルモンや生殖腺刺激ホルモンといったタンパク質ホルモンの研究に対して大きな影響を与えていくのでした。


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2009年06月12日

苦にならない実験のやり直し

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電気泳動では単一なバンドを示したことから、純度の高い精製品と思われていたサケのプロラクチンは、高速液体クロマトグラフィーによって2つの成分に分かれました。

この新事実によって、アミノ酸配列決定は出直しとなるのでした。

しかし、実験の失敗によってやり直すのとは訳が違い、これで正確な全構造が解明できるとあって、楽しい再検討です。

当時、最新鋭の分析技術であった高速液体クロマトグラフィーは、高い分離能と再現性の良さから、生体試料から精製されたペプチドホルモンと人工合成したホルモンの溶出パターンを比較して、提唱されたホルモンの構造が正確かどうかを証明するのにも使われていました。

このことを応用して、タンパク質の構造解析の場合、同じ条件下でタンパク分解酵素によって断片化し、それらを高速液体クロマトグラフィーで分離した時の溶出パターン(ペプチドマップと呼びます)を比較すると、構造の変異している箇所が特定できるのです。

次に、どのようなタンパク分解酵素を使うのがよいかを検討しなければなりません。
理想は、ある特定のアミノ酸残基の所だけで切断する酵素です。

そんな時、タイムリーなことに、リジン残基のカルボキシ末端側だけを切断する酵素(リジルエンドペプチダーゼ)が発売されました。

これなら、これまで使っていたトリプシンやサーモライシンのように細かく断片化されすぎずに、適度な大きさの断片が期待できます。

リジルエンドペプチダーゼ消化したプロラクチンのペプチドマップを比較した実験の結果は↓のようになり、溶出位置の異なる断片がいくつか見いだされました。

PIC134.jpg


つまり、PRL-IとPRL-IIでは同じアミノ酸配列をしているのではなく、数カ所にアミノ酸残基の変異があることが判ってきました。


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【岩手釜石の地酒】浜千鳥 純米酒 1.8L




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2009年06月10日

ぽっちゃりめのピークに福来たる

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TSK gel ODS-120Tカラムを使った高速液体クロマトグラフィーでは、サケのプロラクチンを回収することができました。

その時のレコーダーに記録されたピークの形状は、普段、見慣れたペプチドのピーク形状に比べて、かなり太めになっていました。

これは、「分子量の大きいタンパク質だから」という理由が考えられます。

ところが、このピークをよく観察すると、ピークの頂点がほんの少しへこんでいたのです。

ひょっとしたら、このプロラクチンのピークは2つに分かれるかもしれない。その時、直感的にそう感じたのでした。

それで、アセトニトリル濃度が40〜60%になるように、高速液体クロマトグラフィー装置のプログラムを変更します。

カラムの平衡化が完了し、プロラクチンを装置に導入すると、レコーダーのペンの動きに注目が集まりました。

試料を導入した時のノイズを記録した後、しばらくするとベースラインを書いていたペンがゆっくりとピークを描き始めました。そして、頂点まで達したペン先は下降線を描くようになります。

下降線を書いていたペンは徐々にその下降速度が遅くなり、一瞬止まったかのようになった後、再び上昇に転じたのでした。

そしてプロラクチンは、見事に2つのピークとして分離されたのです。

PIC133.jpg


このクロマトグラフィーでの溶出順に従い、最初に溶出してきたプロラクチン(prolactin:PRL)分子を「PRL-I」、遅れて溶出してくる分子を「PRL-II」と名称が付けられました。

「タンパク質ホルモンが高速液体クロマトグラフィーで分離・精製できる」という結果は、魚類の内分泌研究を飛躍的に発展させるきっかけになるのでした。


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函館産真いかで造ったこだわりの真いか塩辛





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2009年06月08日

常識はずれの実験

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魚であるシロサケの脳下垂体から精製したプロラクチンをタンパク質化学的に構造解析すると、パズルから外れてしまう断片化したペプチドが生じてきました。

「どうしても、当てはまらないフラグメント(断片化したペプチドのことです)がある」

とか

「繰り返し構造みたいなことを想定しても、それを証明するフラグメントがない」

など、いろいろ騒いでいると、ある日、教授がある真新しい高速液体クロマトグラフィーのカラムを持ってきて、「これにプロラクチンをかけてみろ」となりました。
(かけてみる = 分離・分析してみる)

カラムの入った箱をみると、「TSK gel ODS-120T」と書かれています。

ODSカラムとは、18個の炭素が直鎖状になったものを結合させたシリカ粒子を詰めたカラムで、当時は、「吸着させた分子量5000以上のタンパク質・ペプチドはODSから回収できない」ということが常識になっていました。

それを、分子量22,000もあるプロラクチンを分析することになったわけですから、誰しも頭の中は「???」状態です。

とにかく全構造を決めるには八方ふさがりだったので、「やれ」と言われたから、とにかく「やってみるか」という状況でした。

新しいカラムをセットした高速液体クロマトグラフィー装置のプログラムを5%から60%へとアセトニトリルの濃度勾配になるように設定します。

「どうせ、何も出てこないだろう」という雰囲気の中、分析を始めると、分析時間終了間近になって、1本のピークが現れました。

これには、全員驚きで、「これ何?」ってことになりました。

プロラクチン?、それともゴーストピークなのか?

それで、もう一度分析をトライすることに。

この時、カラムに導入するプロラクチンの量を前回より増やしてみると、前の結果よりも大きいピークとなって検出されました。

この事は、それまでの常識に反して「タンパク質ホルモンがODSカラムによって回収できる」という事実が生まれた瞬間であり、幸福への第一歩となったわけです。


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2009年06月04日

合わないパズル

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脳下垂体では「プロラクチン」というホルモンが作られています。

このホルモンは、動物の進化に伴って、その生理作用も変化してきたことで知られています。

例えば、哺乳動物では乳腺の発達や乳汁の合成や分泌などに係わっています。
これが淡水魚では、体内から外界へナトリウムイオンが流出しないようにしているのです。つまり、魚が水の中で水ぶくれにならないで生きていけるのは、このホルモンの作用によるものなのです。

シロサケの脳下垂体から精製されたプロラクチンは、SDSゲル電気泳動や等電点電気泳動などで単一バンドになることから、「極めて純度の高い」ホルモンとされていました。

ところが、タンパク分解酵素などを使って断片化し、それらのアミノ酸配列を決めた後に、配列の重なり合いを見ながら、プロラクチンの全アミノ酸配列を検討すると、どうしても余ってしまう断片があったのです。

何度もデータを見直して注意深く検討すると、はっきり言えたのは、「このジクソーパズルは完成しない」という結論だったのです。

最後までかみ合うことのない断片の存在。これでは、全構造を決めたことになりません。

なぜ、そうなってしまうのか?

答えを見つけられない日々が何日も続くのでした。


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2009年02月19日

幻が現実になったとき

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一般に生理現象は、刺激効果と抑制効果といった2つのホルモンによって支配されています。

例えば、魚やカエルは、まわりの景色に合わせて、体色を変化させます。黒い所では黒っぽく、白い所では白っぽくなるのです。

これには、メラニン色素が関係しているのですが、メラニンを刺激して体色を黒くさせるホルモンはメラニン刺激ホルモンというのがありました。

これに対して、メラニン顆粒を凝集し体色を白くするホルモンは、存在していると考えられていましたが、多くの研究者が単離を試みたところ、なかなか見つけることができなくて、「幻のホルモン」とまで言われていました。

魚の脳下垂体の研究で、ペプチド類を解析してみると、メラニン刺激ホルモンをはじめとするプロオピオメラノコルチン関連ホルモンや後葉ホルモンが同定されました。

ところが、17個のアミノ酸で構成されていて、活性の分からない「謎のペプチド」が魚の脳下垂体にあったのです。

このペプチドは1つのスルフィド結合を含んだユニークな構造をしていました。
PIC104.jpg


ある年に行われた国際比較内分泌学会のディスカッションで、メラニン色素を支配するホルモンの話題になりました。

そこで、メラニン凝集ホルモンを見つけるために、魚の鱗を使った活性試験法が作り出されることになったのです。

できあがった試験法を使った実験の結果、17個のアミノ酸からなる「謎のペプチド」が、メラニンを凝集させたのです。

このことは、「幻」だったものが「現実」のものになった瞬間でもあるのです。

このメラニン凝集ホルモン(MCH)をニジマスに注射すると、↓のような体色になります(写真は北里大学のホームページから転用)
PIC103.jpg

今では、この「メラニン凝集ホルモン」は脳内でも働いていることが解り、食欲に関与しているホルモンとして知られるようになりました。




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posted by イソガニ博士 at 23:45| Comment(0) | TrackBack(0) | ホルモン研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年02月16日

新たな挑戦、魚類の脳下垂体ホルモンの場合

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魚類の脳下垂体ホルモン研究の場合は、先に精製と構造の解析が行われ、生物活性試験は後回しにされました。

今から30年近く前の事で、ホルモンの精製は「生物活性試験を行いながら」という方法が定説になっていた時代に、なぜ、そのようなことができたのでしょうか?

キーとなったのは、「分子進化」的な考察でした。

脳下垂体ホルモンは、ウシやヒツジ、ヒトといった哺乳類を対象とした研究が先行していました。

その時、決定された構造を比較することで「分子進化」という概念が生まれ始めました。

つまり、それぞれのホルモン分子の物理化学的特徴は、動物種が違っても、よく似ていたとのことです。

このことを、魚類の脳下垂体ホルモンの研究で応用してみたのです。

まずは分子量による分類です。

魚の脳下垂体の抽出物の中から、分子量22,000くらいのタンパクはプロラクチンか成長ホルモンのどちらか、糖タンパク質は生殖腺刺激ホルモン、ペプチド類はメラニン刺激ホルモンや後葉ホルモンなど、と予想をしながら精製していきます。

それぞれ、精製純度が高まった段階でアミノ酸配列の解析を行い、配列の類似性からホルモンの種類を特定していったのでした。

そのために、生物活性試験は構造の決まってからの実験となりました。

「アミノ酸配列の類似性から、タンパク質やペプチドの種類を決定する」という、今となっては当たり前の方法ですか、1980年代の当時としては、次々と魚類のホルモンが同定されていく様子は、まるで手品をみているようにと感じられた方も多かったと聞いています。



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2009年02月12日

尻尾を見極めろ!!

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生物活性試験に頼らないで新しいホルモンを見つける方法の1つです。

ペプチドやタンパク質はアミノ酸が鎖のように繋がったものです。
それで、一方の端をアミノ末端、もう一方の端をカルボキシ末端と呼びます。

(アミノ末端)NH2-○○○○○-COOH(カルボキシ末端)

アミノ酸の順番はアミノ末端から1、2、3位と付けられるので、カルボキシ末端は「おしり」とも言われています。

ホルモンの中でも「神経ペプチド」と呼ばれているものは、カルボキシ末端の部分が普通のペプチドやタンパク質とは少し違った構造をしていることがあります。

すべての神経ペプチドというわけではありませんが、-CONH2(カルボキシ末端アミド)という構造になっている場合が多いのです。

この「尻尾」の構造の違いに着目し、ペプチドのカルボキシ末端を分析して、カルボキシ末端アミドになっているペプチドを選択的に見つけ出すことで、新しいホルモンが発見できるのではないかという研究がありました。

カルボキシ末端分析とは、ペプチドをカルボキシペプチダーゼで消化して、遊離してきたアミノ酸(○-COOH や ○-CONH2)をアミノ酸分析します。

これは、高速液体クロマトグラフィーという分析手法は普及してから行われた研究です。

しかし、この神経ペプチドの探索法は、効率よく新しい神経ペプチドを見つけられないという欠点がありました。

神経ペプチドが、なぜカルボキシ末端をアミド化しているのかというと、分解酵素による抵抗性を持つことによって、効果の持続性を出しているのです。

カルボキシ末端アミド構造を持つペプチドはカルボキシペプチダーゼで消化されない、あるいは消化されにくいことが、この探索法の限界を意味しているのです。



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2009年02月10日

ホルモンの探索に超遠心機

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新しいホルモンを探索するのに、生物活性試験に頼ってばかりにはいられないと考える研究者もいて、過去にはおもしろい探索法が幾つか行われました。

1つはホルモンの生合成過程に着目した方法です。
組織学的に見て、細胞の中で合成されたホルモンは、下の写真のように分泌顆粒という形で貯蔵されています。黒い丸粒に見えるのが分泌顆粒。
PIC102.jpg


それで、細胞を構成している各コンポーネントを分けて、この分泌顆粒だけを集めようとしたのです。

これは、「超遠心機」という機械が登場した1960年代に行われた研究で、分泌顆粒を集めることに成功しています。

しかしながら、集めることは出来ても、顆粒の中にある物質がどのような構造をしているのかという解析は、当時の分析技術では行うことが出来なかったのです。



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